「好きなことを仕事にしたほうがいいのかな。それとも、好きは好きのままにしておくべき?」
会社員だった頃の私は、この問いの前で何度も足踏みしていました。
日曜の夜、手帳を開くと、ページの左側には月曜の会議とタスク、右側にはいつか行きたい温泉のメモが並んでいました。同じ紙の上にあるのに、私の頭の中では、まったく別の棚に置かれていたのです。
私は約10年間、製薬会社で新薬開発やDX推進に関わる仕事をしてきました。仕事に不満があったわけではありません。ただ、温泉やヨガ、手帳、旅といった好きなことと仕事が、ずっと交わらないまま並んでいるような感覚が、心の隅に残っていました。
そのモヤモヤがほどけたのは、好きなことの見方を少し変えたときでした。
好きと経験を、別の棚にしまっていた
週末は、湯気の立つ温泉に浸かって、ぼんやりする。ヨガマットを広げて、呼吸に意識を向ける。手帳にペンを走らせて、一週間の予定と気持ちを書き出す。長い休みには旅に出て、気づけば国内は44都道府県、海外は約10か国を訪れていました。温泉ソムリエやメディカルヨガインストラクターの資格も取りました。
それでも、私はそれらを仕事とは別の棚にしまっていました。好きなことは、疲れた自分を回復させてくれるもの。仕事は、責任を持って成果を出すもの。無意識のうちに、そう役割を分けていたのだと思います。
その棚分けが問題になったのは、会社を辞めて次の働き方を考え始めたときでした。
ノートの左側に「好きを仕事にする」、右側に「これまでの経験を活かす」と書いて、それぞれのメリットを並べてみました。けれど、どちらの列にも、これだと思える答えを書けないまま、ペンだけが止まっていました。
好きなことで収入を得るのは、特別な才能のある人の話。経験を活かすのは安全だけれど、自分の気持ちが置き去りになりそう。どちらを選んでも、もう一方を手放すことになる気がして、どちらも選べない状態が続きました。
あとから振り返ると、このとき私は、好きなことを温泉、ヨガ、手帳、旅といった活動の名前でしか見ていませんでした。だから、温泉を仕事にできるだろうか、ヨガで食べていけるだろうか、と、活動そのものを仕事にする話にしか、発想が広がらなかったのです。
なぜ好きなのかを掘ると、共通点が見えてきた
転機になったのは、好きなことと、仕事でやりがいを感じた場面を、同じ紙に並べて書き出してみたことです。
そのうえで、ひとつずつ、なぜ好きなのかを問い直しました。最初は気持ちいいから、落ち着くから、といった浅い答えしか出てきません。たとえば温泉なら、気持ちいいのさらに奥を掘ると、湯船に浸かっているとき、体がゆるむだけでなく、頭の中で散らかっていた考えも静まっていることに気づきました。
ヨガや手帳、旅、そして仕事でも同じように掘っていくと、バラバラに見えていたものに、2つの共通点が浮かび上がってきました。
1つ目の軸は、「散らかっているものを整えて、次の一歩を踏み出せる状態にすること」です。手帳やジャーナリングは、頭の中のもやもやを整理して、明日やることを見つける時間。仕事でも、複雑に絡み合った業務や関係者の動きを整理して、プロジェクトが前に進む形にしていくときに、いちばんやりがいを感じていました。
2つ目の軸は、「体と心を整えること」です。温泉やヨガは、体をゆるめて、心も落ち着かせてくれる時間。そして新薬開発という仕事も、人の健康を支えるという意味では、同じ方向を向いていました。
この2つは、どう関わるかと、何に関わりたいかの違いだと考えています。私は、散らかったものを整えて前に進める形で、人の心と体の健やかさ、つまりヘルスケアやウェルビーイングに関わることが好きだったのです。
好きと仕事は、どちらかを選ぶ二択ではない。そのあいだにあったのは、この2つの軸でした。
軸を言葉にできたのは、書いて、発信して、話したから
とはいえ、頭の中で考えているだけでは、気づきはぼんやりしたままでした。輪郭がはっきりしたのは、SHElikesでライティングやSNSマーケティングを学び、アウトプットする機会が増えてからです。
SHElikesでは、学んだことをすぐに試せます。ライティングを学んだら、ライターの仕事やコンペに応募してみる。SNSマーケティングを学んだら、手帳やジャーナリングの発信を始めてみる。この記事も、SHElikesのライターコンペに応募した一本です。
文章にするには、誰に何を伝えたいのかを決める必要があります。書いてみて、なんだか違うと感じたら、言葉を選び直す。その繰り返しのなかで、私は整えることについてなら言葉が出てくる、という感覚が、少しずつ確信に変わっていきました。
もうひとつ大きかったのが、毎月のコーチングです。自分の考えを人に話し、次に何をするかを宣言する。誰かに話すと、自分でも気づいていなかった言葉が出てくることがあります。
好きなことと、できること。分けなくてよかった
以前は、経験に合うか、条件は悪くないか、という基準で仕事を眺めていました。今は、散らかったものを整えて誰かが前に進むお手伝いになるか、人の心や体の健やかさにつながるか、という2つの視点が加わっています。
軸を言葉にしたあと、私がしたことはシンプルです。書き出した軸を人に話してみること。そして、その軸に合う仕事に、自分から手を挙げてみること。
その結果、今は業務委託として、好きなことと、できることを組み合わせて働けています。温泉科学の領域では、温泉ソムリエとしての知識と、専門的な内容を一般の方に伝わる形に整える力を活かして、発信をサポートしています。ウェルビーイングの事業では、製薬会社で培ったDX推進やプロジェクト管理の経験を活かして、事業を前に進める仕事をしています。
好きを仕事にするか、しないかで悩んでいた私が、今感じているのは、分けなくてよかった、ということです。軸を言葉にして、人に話して、自分から動く。その積み重ねが、好きなことと、できることが重なる今の働き方につながりました。
あなたの好きの奥にも、軸はある
まずは、好きなことややりがいを感じた場面を書き出して、その理由を何度か掘り下げてみてください。
ただ、ひとりで考えていると、どうしても手が止まりがちです。私にできるかな、と迷う気持ちも、よくわかります。私も、文章を書くことを仕事にしてきたわけではありませんでした。それでも、SHElikesで書いて、発信して、人に話す機会があったことで、完璧になる前に一歩を踏み出せました。気になることをひとつ学んでみるだけでも、好きと仕事のあいだの景色は少し変わるかもしれません。
今の私の手帳には、月曜のタスクと、行きたい温泉のメモが、同じページに並んでいます。別々の棚に置いていたものは、整えるという一本の線でつながっていました。
「好きなことを仕事にしたほうがいいのかな」。かつての私と同じ問いを抱えているなら、答えを急がなくて大丈夫です。好きと仕事のあいだには、二択ではなく、あなただけの軸が眠っているかもしれません。
あなたの好きの奥には、どんな軸がありそうですか?
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本記事はSHElikesの受講生を対象とした「SHEライターコンペ」の採用作品です。(執筆者 若奈さん)
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