「私は、何になりたいんだろう」
大学で医学を学び、医療の現場で働いてきた私にとって、これまでの経験を活かすなら、医療に関わる仕事が自然な選択肢でした。
夫の収入で生活が成り立っていて、私は主婦として家事をしながら暮らしています。その生活に大きな不満があるわけではありません。
それでも、せっかく身につけてきた知識や経験を活かさないまま、時間だけが過ぎていくことには落ち着かなさがありました。
何かを始めたい。できれば、これまでの経験も活かしたい。
でも、何をしたいのかはわからない。
そんなとき、「まずは新しい資格を取ってみよう」と考え、医療の知識を活かせそうな資格を調べました。
「これで進む方向が見つかるかもしれない」と思ったものの、「その資格を取って何がしたいの?」と自分に問いかけると、答えに詰まってしまいました。
資格があれば、選択肢は増えるかもしれない。でも、それは「この仕事がしたい」という答えではありませんでした。
「自分にできそうなこと」を探して職業や資格の名前を眺めても、「これだ」と思えるものは見つからなかったのです。
「医療の知識を活かしたい」
「何か人の役に立つことがしたい」
「でも、これまでと同じ働き方に戻りたいわけでもない」
やりたいことの輪郭はぼんやり見えるのに、それを表す職業名が見つからない。私はずっと、「何になりたいんだろう」と考えていました。
あとになって気づいたのは、私に必要だったのは、そもそも別の問いだったということです。
「何をしているときが好き?」なら、答えられた
そうして振り返ると、昔から変わっていないことがありました。
私は、人に何かを教えることが好きでした。
小学生のころ、友達からドリルのわからないところを聞かれると、張り切って説明していました。ただ答えを教えるのではなく、「どうしてそうなるのか」を順番に話して、相手が「あ、わかった」と言ってくれる。その瞬間がうれしかったのです。
大学受験のころから、私にはひとつの勉強の基準がありました。
「人にわかるように説明できるまでにならなければ、本当に理解したことにはならない」
自分ではわかったつもりでも、誰かに説明しようとすると言葉に詰まることがあります。
なぜそうなるのか。どこまで説明すれば伝わるのか。
そこまで考えて、ようやく「理解できた」と思える。この感覚は、医学を学ぶようになってからも変わりませんでした。
振り返ってみると、私はずっと、
「知ること」
「理解すること」
「わかるように伝えること」
が好きだったのだと思います。
小学生のころに友達へ勉強を教えていたことも、受験勉強も、医学を学んできたことも、私のなかでは一本につながっていました。
振り返れば、今見えているキャリアの土台になっているのは、医学の知識だけではありません。小学生のころから好きだった「人にわかるように伝えること」も、私にとって大切な土台でした。
「何になりたい?」ではなく、
「私は、何をしているときが好きなんだろう?」
肩書きから離れて、自分の「好きな動詞」を見つめたとき、ようやく新しい方向が見え始めました。
「好きな動詞」をたどったら、新しい仕事が見えてきた
働き方についての考え方が変わるきっかけになったのは、フリーランスで働く友人でした。自分の得意なことを組み合わせながら仕事をつくる姿を見て、「働き方はひとつではないんだ」と気づきました。
ひとつの職業に自分を当てはめなくてもいい。そう思えたことで、新しい選択肢が見えてきました。
新しいスキルを身につけようと始めたのが、SHElikesでした。
最初に興味があったのはWebデザインでした。ところが、実際に学んでみると、思いがけず惹かれたのはライティングでした。
文章を書くことは、読者に向けて手紙を書くような感覚でした。「ここは伝わるかな」「もっとわかりやすくできないかな」と考えるのが楽しく、気づけば何時間も編集して、首が痛くなるほど夢中になっていました。
それは新しい学びでありながら、「知る・理解する・伝える」という自分の好きを、そのまま活かせるものでした。
ライティングをしていて、特に好きなのは記事が完成したときです。
「これを読んだ人は、どう感じるだろう」
「少しでも『わかった』と思ってもらえるだろうか」
そんなふうに、文章の向こうにいる人を想像するとわくわくします。
そして、これまで学んできた医療と「書くこと」がつながった先に見えてきたのが、医療ライティングという仕事でした。
新しい肩書きを探していたときには見つからなかった道が、自分の「好き」をたどることで、少しずつ形になってきたのです。
好きと仕事のあいだで、「自分らしいキャリア」が見えてきた
好きなことを全部、仕事にしなくてもいい
私は、患者さんの話を聞くことが好きでした。
できるだけ丁寧に向き合って、「いいお医者さん」でありたい。そう思ってきました。
でも、それを追い求めるほど、「もっとちゃんとしなければ」「もっと頑張らなければ」と、自分自身が見えなくなることもありました。
患者さんと向き合うことも、文章を書くことも好き。どちらかひとつを選ぶ必要はないのだと気づきました。
これまでの経験は、捨てなくてもいい
新しいキャリアを考えるとき、私はどこかで「これまでとは違う自分にならなければ」と思っていました。
でも、医療ライティングを知って、その考え方が変わりました。
医学を学んできたこと。
人に説明できるまで理解しようとしてきたこと。
そして、SHElikesで学んだライティング。
これらは別々の経験ではなく、掛け合わせることができます。
新しい道へ進むために、これまでを捨てなくてもいい。
これまで積み重ねてきたものに、新しく見つけた「好き」を足していく。それも、自分らしいキャリアのつくり方なのだと思います。
「何になりたい?」より、「何をしていたい?」
今、「何になりたいの?」と聞かれたら、私は職業名ではなく、こう答えたいです。
むずかしい医療を、わかりやすく伝えられる人でありたい。
医学を学んできたことも、人に説明することが好きだったことも、SHElikesでライティングに出会ったことも、今ではひとつにつながっています。
キャリアは、ひとつの肩書きを選んで終わるものではないのかもしれません。
これまで積み重ねてきたことに、自分の「好き」を少しずつ重ねていく。
そうしてできた道なら、きっと誰かと同じでなくてもいい。
「何になりたい?」ではなく、「何をしていたい?」
その問いから、あなたらしい働き方も始まるのかもしれません。
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本記事はSHElikesの受講生を対象とした「SHEライターコンペ」の採用作品です。(執筆者 あんじゅーたさん)
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