ちっひーさんは柔らかな佇まいでありながら、どこか芯の強さを感じさせる人物だった。
営業職、ヨガのインストラクター、そして現在はデザイナーとして働きながらコミュニティ運営も行っている彼女だが、キャリアチェンジの背景を聞くと、そこには家族とキャリアの狭間で揺れ続けた深い葛藤があった。
SHElikes受講生インタビュー
複業デザイナー ちっひーさん
営業職、ヨガインストラクターを経験後、専業主婦へ。子育て中にSHElikesに入会し、複業デザイナーに転身。
しがないOLコラムニスト ジェラシーくるみ
会社員として働きながらコラムニストとしても活躍。リアルな恋愛観やアラサー世代の悩みを描き、多くの共感を集める。著書に『そろそろいい歳というけれど』『私たちのままならない幸せ』(主婦の友社)など。
Story
「夫が転勤族で、正社員を続けることが難しくなり、営業職を辞めることにしました。その後、以前から興味があったヨガのインストラクターとして働きました。器械体操部出身ということもあり、自然と惹かれたんです」
しかし、子どもを抱える中でいくつものスタジオを回る現実は想像以上に過酷で、コロナ禍という時代の変化が彼女に新たな選択を迫った。
保育園に預けるか、仕事を手放すか。
彼女は迷いながらも、今この瞬間しかない子どもとの時間を選ぶことにした。
専業主婦として過ごした最初の3ヶ月は穏やかだったが、その平穏は次第に孤独な時間へと変わっていったという。
赤ちゃんしか喋る相手がいない日々。家事をこなし、息子の世話をする中で、彼女はふと自問した。
「私が今ここにいる意味って何だろう?」
CareerChange
社会とのつながりを失った感覚は深い影を落とし、将来への漠然とした不安を彼女に突きつけることになった。
副業やバイトを検索するも、出てくるのは時間を切り売りするような単純作業ばかり。
世知辛い現実に直面し、やきもきしていた彼女の目に飛び込んできたのが、SHElikesの「主婦からキャリアチェンジ」というメッセージだったという。
「最初、Webデザインには興味がなかったんです。でも体験レッスンに参加してキャリアチェンジした人の話を聞いているうちに、挑戦してみたい、となんとなく思ったんですよね。」
ほんの1年半前までデザインに興味も縁もなかった、という言葉は少し衝撃だった。
今の彼女が作り出すアウトプットは、洗練されていながらもどこか温かみがあって、人を引き付ける力を感じさせるからだ。
しかし振り返ってみると、キャリアの曲がり角というのは案外そんなものなのかもしれない。
大きな決断や揺るぎない信念が先にあるわけではなく、ふとした偶然がひっそりと道を開く瞬間があるのだ。
ドのつく初心者にもわかりやすく、「デザインとは何か」という基本から始まるSHElikesの講座だったが、彼女にとって特に印象深かったのは、後からじわじわと効果を感じたセルフブランディングコースだったという。
「仕事をもらう上では、自分をどう見せるか、という視点がすごく重要だと学びました」
キャリアの浅いちっひーさんにとって、美大出身のデザイナーや経験豊富な人たちとスキル一本槍で競うのは難しい。
だからこそ、彼女は「どうすれば自分を選んでもらえるか」を深く考える必要があったのだ。
「私らしさ、私にしかないもの、発信の仕方を深く考えましたね。一人では全然進まないけど、SHElikesで繋がった仲間と壁打ちをしながら進めました」
スキルの巧拙ではなく、どう自分を表現し発信するかが勝負の鍵。
セルフブランディングこそが競争の舞台だと彼女は痛感したのだ。
Challenge
一番楽しく取り組めたロゴデザインの勉強を進める中、彼女は一つの壁にあたった。
どんなに勉強しても、実践の場数を踏まなければデザインは上達しないからだ。
そこで彼女が生み出した案が、「ロゴデザイン100本ノック」。
▲実際に制作した100本ノックのロゴ作品
自分でお題を考えたり、AIに依頼してもらったりしながら、架空のクライアントに向けて毎日一つロゴを作り、SNSに発信していくというものだ。
たとえば「商店街にある地元のお花屋さん」や「三軒茶屋に新しく開業したヨガスタジオ」など。
手元に仕事がないなら、自らチャレンジを作ればいい――その発想と行動力に私は舌を巻いた。
新しいことを学び始めたうちは、知識の沼に溺れてしまうものなのに。
「100本ノック、実は完走していないんです」
彼女はにこにこしながら打ち明けてくれた。
最初は100本作るつもりで始めた挑戦だったが、作品を発信していくうちに次第にコメントや「いいね」が増え、60本目の時点で試しに依頼募集をしたところ、なんと一気に6件もの依頼が舞い込んできたという。
▲ポートフォリオサイトとデザインの実案件
だが、そこまでの道のりは決して平坦ではなかったようだ。
まず幼児を育てながらの受講は至難の業。“自分の時間”は、息子が寝た9時頃からようやく始まるのだ。
受講が中断されるたびに苛立ちを覚え、その頃は夫との喧嘩も増えたという。
「30分しか勉強できない日もありました」と彼女は振り返る。
必死に確保したわずかな30分。その短い時間に、ちっひーさんがどれだけの集中力を注いだかと考えると、胸がきゅっと締めつけられる。
そもそも彼女がロゴデザインに力を入れるようになったのは、SHElikesに入会して半年以上経った頃だそう。
最初の一歩目としてバナー制作に挑戦したものの、コンペに参加しては採用されない日々。
「採用されたバナーを見ると『あ、負けた』って思うんです。参考になるけれど、どうしても悔しくて、心が挫けそうになったりして」
わかる、わかる。自分より優れたものを眼前に突きつけられるのはしんどい。
参考になるな〜とつぶやきながらも胸の奥には悔しさがうずまき、「どうせ私なんか」という腐った感情が顔を出す。
私もそうだ。自分より面白い文章に出くわすと、つい作者の経歴を掘り起こし始める。
「なーんだ、私より10年もキャリアが長いのか」「元タレントなら仕事もくるわな」と半笑いで、自分が勝てない理由を探し回る。
終わりなき孤独な探検だ。
次に彼女はHP制作に挑戦したが、コーディングに苦戦。そして最後に辿り着いたのがロゴデザインだった。
「基礎講座を1時間40分受けてみてピンときました。どうすれば上達するんだろうと考えて、出した苦肉の策が100本ノックです(笑)」
その言葉には、彼女の粘り強さがにじみ出ていた。
大人になった今、私たちの尻を叩いて催促してくれる人はいない。フリーランスの世界では、自分の怠けがそのまま結果に跳ね返るのだ。
取材中、彼女はずっと柔らかな笑顔を浮かべていたが「一度決めたことはやりきれるはず」という己への信頼感がずっしりと根を下ろしているようだった。
Afterword
現在の生活は、洗濯物を畳む間にロゴのコンセプトを考えたり、子どもと一緒にテレビを見ながらデザインを練ったりする日々だという。PCに向かわなくても彼女の脳内では仕事が進んでいるのだ。
平日は3〜6時間ほど働き、土日は家族との時間を大切にしているという。
まさに私が思い描いていた働き方なんです、と彼女は満足そうに語る。
お気に入りのソファに深く沈み込むように、自分の体と心にしっくりと馴染む心地よい働き方。
それを見つけるまでの道のりは、彼女自身の生き方を再定義するプロセスだったのだろう。
葛藤と試行錯誤を経て、ようやく辿り着いたこのバランス。
一度は自分の存在意義を見失った彼女だが、今やパワーアップした自分自身を取り戻し、大胆にキャリアの舵を切って新たな道を歩み始めている。
自分の価値なんていくらでも定義し直せるのだと、私は彼女の勇姿に学んだ気がした。
( STAFF )
ライター/ジェラシーくるみ
編集/橋本 恵梨奈
デザイン/樋口まお
実装/阿部 美穂
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